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ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
(2008/12)
伊藤 計劃

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結構前からブログ等でチェックしている作家の長編SF第三弾。

時は21世紀後半。20世紀後半に起こった「大災禍(ザ・メイルシュトロム)」と呼ばれる世界的混乱を経験した人類は、医療経済を格に据えた社会を作り上げた。
成人するとwatchmeと呼ばれる装置を体内に取り込み、体内を常時監視させあらゆる病気をほぼ完全に予防する。
曰く、人間の体は自分だけのものではない、社会の大切なリソースだ。
曰く、常に他人のことを気遣わなければならない。
曰く、社会的評価点の高い、模範的な生活を営まねばならない。
そんなキレイさが自然に受け入れられた世界。それに対し息苦しさを感じる三人の少女がいた。
彼女らは、自分の預かる“リソース”を自分の意志で破壊すること…つまり自殺することで社会への反抗を試みる。
しかし、望みどおり死ねたのはただ一人、この提案をした御冷ミァハのみ。
彼女のカリスマに魅かれていた二人の少女は生き残り、それから10年の時が流れる。
二人のうちの一人、霧慧トァンは未だに抱える反社会性を隠しつつ、福利厚生世界を支えるWTOの監査官として働いていた。
そんなある日、「社会への挑戦」とも言うべき事件が発生する。事件の影にちらつくミァハの姿。それをトァンは追い求めることになる。

物語の筋立てとしては、「虐殺器官」(長編第一弾。恐らくハーモニーと同一世界。)と非常に似ている。
MGS4ノベライズ(長編第二弾)でも同じだが、移動と調査と失敗を繰り返す流れ。
ただ、前の二作品よりも隠密任務の際に必要となる偽装や工作、準備の専門的描写が薄められているせいか、どうも「狭く」感じてしまう部分も多い。

だが、この作品の魅力はそうした筋立てよりも、構造の部分だと思う。
何より特筆すべきは随所に「etmlタグ」…htmlタグのような記号がふられ、文章を変わった秩序のもとに置いていること。
この世界観を支えている秩序を、その世界の内(=作品内の描写)だけでなく世界の外側(=文体そのもの)からも印象付けている、と言えるだろう。
例えば、感情を喚起する部分。
「<disappointment>
わたしは結局、食べ過ぎても死ねず、食べな過ぎても死ねなかった。
</disappointment>」(p60から引用・<>は全角に変更)
という具合に。
こういう感情をタグでくくる部分は、描写を補強するだけではなく物語的にも大きな意味を持ってくる。
そんなわけで、物語の謎と文章自体の謎が同時に明かされていく終盤はとてもインパクトが強いものだった。明らかに異質ながらも確かな感触を持って、ラストの風景は読者の頭に流れ込む。

自分の体を・他人を・社会を思いやらなければならない、という考え方が生活システムから根付いてる世界。
本作は、それに適応できず、適応したふりをしている主人公の視点から語られる。
作品世界において彼女は潜在的な社会病質者でしかない。
が、健康や環境、そして社会の問題にあまり関心がないような―――たとえば自分のようなタイプの―――現代人には、この主人公の感じ方はすんなり受け入れられると思う。
なぜなら、政治問題等からほとんど切り離されてしまった一般社会がよく描かれていて、真に迫っているからだ。
なので、「自分ならどうするか」のように主観を重ねて考えてしまう部分は実に多かった。

前作と引き続き、人間の意識とは何なのかという問題に触れている。
意識を巡る理論や技術の発展の設定・考証も興味を引くように語られている。
特に、明言は避けるが、ある民族についての設定にはかなりくすぐられた。

また、前作に引き続き、未来的ガジェットの良さも健在。
ミリタリー趣味は抑え目になったかわりに、ネットワーク関係の小道具が存在感を増す。

ところで、作者はテーマとして「百合」(=女性の同性愛)を持ってきたそうだ。
たしかに、外面的には女傑的なトァンが内面ではミァハの妖しさに魅了される様子はそんな雰囲気が見え隠れしている。
ただ、結構生々しい(別に性描写が濃いとかいう意味に非ず)。
百合という言葉から想像されるような、理想的な甘さはあまり感じられない。
もっとも、「不自然なまでに綺麗になりすぎた世界に反抗する主人公たち」と「不自然なまでの綺麗さを持ってお互いを想い合う主人公たち」の二面は話の構造としてそもそも両立しないから、後者が切られるのは当然と言っては当然であるが。
それに、この生々しさは明らかに意図的なものだ。伊藤氏は(ご自身の病気のこともあってのことだろうが)、現実世界での痛みを感じてそして描くことに余念のない作家だ。
旧サイトでのエロゲ批判にしても、現実における五感を軽視した描写に異を唱えるものであった。
そういう考え方の持ち主である氏が、ダダ甘な百合を描くことなどあり得ないのは当然といえば当然のことだ。

作者は未だ入退院を繰り返さねばならない生活の中にいるらしい。
今作の世界観の根元がそこにあるのは言うまでもない。
また、前述した「狭さ」も、そこから来てしまった弊害かもしれない。
まだまだデビューしたばかり、次回作も期待しているので―――このような場で軽々しく書くのは無礼かもしれないが―――元気でいてほしいと思う。

余談
毎回ちょっとずつ入れてあるパロネタ。今回のはわりとモロだった。
もうちょい控えても良かったのではと思ったりする。
ハルヒネタとかテンプレすぎて逆に良かったかもしれないけど。
個人的には、「indifference ENGINE」(SFマガジンに載ってた少年兵話)のらき☆すたネタが大好きだ。殺伐としたストーリーとミスマッチながらも、不思議と話の流れを崩すものでは無かったので。
図書館で吹いてしまったのはいい思い出。


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